伝統の灯が消える?

伝統の灯が消える?

日本では飲酒が法律で許可されるのは20歳です。英国ではお酒を購入することができるのは18歳になってからですが、家の外で大人と一緒に食事をしながら合法的にお酒が飲めるのは16歳からです。ボーディングスクールの6th Form(Y12、Y13)には先生の監督の下、お酒が飲める場所を提供する機会があります。大人の監視の下、お酒の飲み方を学び、お酒の上での社交を学びます。そうすれば日本の大学の新歓コンパ(もしかして死言?)で「一気飲みで急性アルコール中毒」ということもなくなるのでしょう。

英国でお酒を飲むところと言えばパブがまず頭に浮かびます。パブはPublic Houseの略称で、「公共の家」の名前が示すように、近所の人々が集う公共の場でした。階級社会の英国には、今はありませんが、労働者階級用パブリックバーと中流階級以上向けサルーンバーに分かれているところもあったようです。昔の映画で、その「上流階級向けサルーンバーでブランデーを片手に葉巻をくゆらせながら談笑する紳士達」といった図を見たことがあります。現在のパブは日本風に言うと「大衆酒場」なのでしょうが、日本の居酒屋と違って、伝統的なパブでは食事というより、おつまみはポテトチップスやピーナッツ程度で、立ったままで英国産のビールをたしなむというもの。近所の人々が集い、見知らぬ人とも友達になれる場所で、「おしゃべりとタバコの煙」のあるのが典型的なパブでした。

それが最近パブの閉店が相次いでいるらしいのです。英国ビール・パブ協会によると1990年代に約7万店あったパブが2010年現在は約5万2千店。2006年の屋内禁煙法によって、パブでも禁煙となり、最近の不況とビールのアルコール税アップがますますパブの客離れに拍車をかけているのではないかということです。もしかしたらパブで人と実際に会うより、フェイスブックやツイッターなどの仮想社会上での交流が主流になりつつあるのかもしれません。逆風にさらされてはいますが、そんな中でも知らないもの同士もすぐに仲良くなれた英国のパブと言う伝統の灯は消さないでほしいものです。

吉岡真樹