老舗にhats off

イギリスはその歴史の長さにより「世界最古」とされるものが多くあり、ロンドンにある英国王室御用達の帽子店、Lock&Coも世界最古の帽子店であると言われています。1676年の創業以来、ネルソン提督からチャップリンまで様々な偉人に愛され、度重なる不景気や二度の世界大戦を生き延びている不屈の老舗です。ところが新型コロナウイルス感染拡大対策のロックダウンに伴い、帽子が必要とされるガーデンパーティーや結婚式も軒並み中止となり、売上は激減。長い歴史上初めて店舗を閉めなければならなくなり、客の頭に合わせたハンドメイドの帽子を売りにしていたLock&Coはかつてないほどの大打撃を受けました。しかし、７代目のRoger Stephensonは早い段階で通信販売事業に注力し、普段は実店舗で働いている店員に通信販売の業務を与え、雇用も売上も守るという見事な舵切りを行いました。

この話を通じて、いわゆる老舗と呼ばれる店がなぜ今まで商売を続けて来られたかが分かったような気がします。製品が良いということはもちろんですが、その時代に合わせて柔軟に変化することができるということが、時を超えて存続し続けるための大事な力なのではないでしょうか。Lock&Coも、歴史の長さ・重さ故に、商売の方法を変えるというのは容易なことではなかったでしょう。顧客ひとりひとりに合わせた製品にこだわりを持っているブランドであればなおさらです。それでも素早く変革を敢行したStephenson氏の度量には“脱帽”します。イギリスには他にもたくさんの老舗店があり、ともすれば昔から変わらない国、という印象を抱いてしまいそうになりますが、実際には時代にあわせて靭やかに変化し続けている国だとも言えるのではないでしょうか。

小島